事実、一九六〇年代から七〇年代にかけて欧米諸国では経済成長と労働力不足を背景として賃金上昇が加速し、これがインフレを加速するといういわゆる賃金−物価スパイラルが悪性インフレを助長するという弊害がひろまった。各国政府はこのようなインフレに頭を痛め、外部からの強制による所得政策をたびたび導入した。アメリカでは鉄鋼業や自動車産業などの労使がいわゆるアベック闘争をしばしば展開した。つまり経営者が労働組合の要求する大幅賃上げを呑み、それを製品価格へ転嫁するのである。
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労働組合の力が強く、また製品市場が寡占的構造になっているのでプライスーリーダーによる事実上の管理価格が市場を支配しやすかったからそれが可能であった。しかし、それはアメリカ経済に賃金−物価のスパイラルを引きおこし、アメリカ経済のインフレを加速するとともに、アメリカ産業の国際競争力を弱めたので、一九六〇年代初頭ケネディ大統領が自ら、鉄鋼労使などに働きかけてこうしたアベック闘争抑制を試みた事は有名である。それ以来、さまざまな方法で賃金−物価スパイラルの抑制が試みられたが、一九七〇年代にはニクソン大統領の下で「物価委員会」が設置され正面から(賃金−物価統制に近い)所得政策が行われた。欧州でもインフレ加速に対処するためさまざまな所得政策あるいは政・労・使の社会契約などが試みられた。社会契約では労働組合が賃上げ要求を自主規制する代りに経営者は製品価格引上げを抑制し、政府は物価の安定もしくは引下げに力を尽すという約束をし、社会全体としてインフレの抑制に努力するのである。